ライブレポート2/10 @VOX hall【大槻美奈】




京都VOXホールにて行われた大槻美奈2ndアルバム「SOUND」リリースツアーに参加。

O.A含め、全4組。最後のトリを務めるは本日の主役、「大槻美奈」。

はじまり

伽藍堂。大槻美奈史上、恐らく一番オーソドックスな曲から始まる。

お次2曲目は、軽快な二拍子の「ツナワタリ」。

“バランス感覚の必要なツナワタリ 
迷わず一人きり
渡れたら素晴らしい さあ!”

メロディが面白くて目を向けられにくいが、歌詞が良い。
「1人じゃ進むのが難しいから、あとひと押しくれる人がほしい」そんな思いを感じた。

“遠くでみてて ケセラセラって笑って”

このフレーズの部分が一瞬アカペラになるのがこれまた憎い演出。

「こんばんはー ありがとう!」

2曲目が終わり、彼女は元気に挨拶をする。
レコーディングの苦労や、ドラムの戸渡ジョニー氏との思い出をただ会話するように話す。本当にただ会話を。
それはMCというより、ジョニーさんのとの会話を公開ラジオしてるようで、彼女らしさを思わせた。

3曲目「電波ジャック」
ライブでは、ジョニーさんの珍しいコーラスが聴ける。コーラスしてからバッチリとピアノと噛み合うドラムは、心地よいグルーブであった。間奏の拍のズレた掛け合いもお見事。ぴったりと合っている二人の息。

「砂漠化現象」
砂漠化現象。最後のアウトロのフレーズは砂漠を抜けたような開放感がある。

”ジェンダーは不明です”

と散々歌いながら、最後の最後には、

”ジェンダーは明白です 外野にとってのことですが”

と唄う。自分を客観視することの難しさや、見られたいところ、見られたくないところ。人の理解の難しさを端的に歌っていてとても好きな歌詞。

この「砂漠化現象」と「電波ジャック」の2曲にはバンド「MILKBAR」の寺田達司さんBassとして参加している。ここで彼は役目を終えて、ステージから離れる。

音に引きずり込まれる

ピアノが淡々と鳴る。寂しい音を淡々と重ねる。
そしてタイトルコール「廃墟」

この曲は会場を別の場所に飛ばした。数多の手が伸びて、どこか暗闇に引きずり込んでくるようなピアノ。優しいような憂いを孕んだメロディ。安堵をもらったかと思えば、「誰もくるな」という大槻美奈のシャウト。

「こっちにおいでよ」と手招きされて、遊びに行けば、崖から蹴落とされるような感覚。崩れるピアノの音、コーラスの聴いた音、ドラムのタム。この間奏は会場を飲み込んで一旦破壊した。彼女が「ありがとございました」と言うまで、観客は微動だにできなかった。

素晴らしいものに対して、人は感嘆を覚えると同じくして「畏怖」を覚える。この「廃墟」はまさしくそれらが混在していた。よく足を運ぶライブハウスを、あたかも来たことがない場所にするような演奏だった。

デモ音源の頃から、この曲に背筋を凍らされっぱなしなのだが、ライブではさらに沈まされた。驚異的に萎縮させられた。

戻る

そんな空気からウソのように軽快に始まる「言葉の兵隊」によって観客は、ライブハウスに戻ってくる。

”さて会話をしよう”

彼女の音楽への思いが伝わるような一節。ドラムがパワフルになっている印象を受けた。イントロから強くなるドラムは、廃墟からの名残なんだろうか。「言葉の兵隊」でここまでパワフルなのは初めてだったので印象的だった。

「楽しんでますか?」と、「言葉の兵隊」が終わり、ここで今日一番の言葉数を口にする。

ちょっと喋ります。このアルバムは、二枚目に出したアルバムで、一枚目に出したのが【MIND】で心、自分の心をテーマにして作ったもので、自分が外に出られなかった(出せなかった?)心を曲にした6曲で、次にアルバムにしたので【SOUND】というこのアルバムです。

【MIND】の時は色々とネガティブに思うことがダメだなと思い、逆にそのネガティブな気持ちがエネルギーになって出来たもの。今回のアルバムは、音楽が楽しいものだな〜と思いながらつくることが出来ました。

(中略)

クラシックピアノを昔からやっていて、譜面通りに弾けば、コンクールで良い点が貰える。それがずっと私はなんでなんだろうと疑問で、それが当たり前の世界だったけど、大学に入ってアルバムを出すことになって、音楽はもっと広いと思って。今日の共演者もそうだけど、たくさんのかたに音楽は自由なんだと教えてもらって。音楽は面白いなぁと研究する毎日。
(後略)

音楽で自由であることを体現しているような音楽をつくる彼女も、悩むときは悩む。そりゃそうだ。自由に作れるというのはそれだけ苦悩がつきまとう。自由は別に自由じゃない。

「何かを変えるということは大事だと知りました」そんな風に言いながら、音楽を作り奏でる彼女の姿は、見る人を勇気付ける。

最後に「宇宙」

彼女曰く、「私がどこにも居場所がないなと思った時、曲の中の人くらい幸せになってほしいと願ってつくった曲」だそうだ。

”あった あったよ 私の居場所”

曲の終盤でハスキーにこう歌う。「曲の中の人くらい幸せに」なんていいながら、幸せ100%の曲をつくらず、この曲の少女も曲の中ではたくさん悲しんで泣いている。そうした所に人間性が見える。彼女の中では、珍しいとてもシンプルな曲ながら、しっかりと「らしさ」を感じられる曲。

二人はステージ脇へと逸れていく。

アンコール

間髪入れず、拍手でアンコール。

大槻美奈1人が戻り、ピアノ演奏の弾き語りで「おとめ」

”むむむ無の境地 むむむ難しい歌を”

なんていう可愛らしい音が続く。可愛らしいが歌詞はすこし悲壮感が漂う。
彼女の曲のタイトルには珍しく、「人を指す言葉」をが入っている。今まで無機質な単語であったり、言葉であったりした彼女の曲の中で、唯一、人を表しているのが、とても気になった。

再びジョニーさんが登場し、1stアルバム「MIND」より「雨」。
イントロで、ピアノの高音域が、雨粒のようなポツポツとした音を鳴らしながら始まる。大サビを最後の最後にもってくるという曲。ただ彼女の曲全体に言えることは、「サビがどうとか話すだけ無駄」。彼女の曲には、そんな概念必要ないほど、自由に音楽を作れる。雑な言葉になってしまうが、彼女のつくるメロディは「全てサビ」といってもいいレベルだと僕は思う。雨もその楽曲の一つだ。

相変わらず、自由な曲だ。会場が楽しいメロディを聴いてほっこりしながら、演目は終わる。

最後に

大槻美奈は怪獣だ。普段はただの女の子だが、音楽になると怪獣だ。

あらゆるジャンルの音楽を吸収し、自分のものにするセンス。突拍子もない展開の曲なのに、聴きやすい。それは理論がしっかりしているから。理論の海を自由に泳げるし、その気になれば陸にも上がれる。センスと理論が兼ね備えた音楽家はほんとうに強い。「音楽が自由」と彼女は言ったが、「彼女自身が自由」なのだと思わされる。

前作の「MIND」も良作だったが、2ndアルバム「SOUND」はそれを超える傑作だと思う。
気がつけば何度も、幾度となく「SOUND」の絵本を開いてしまう。素晴らしいアルバムだ。

今回の記事は「SOUND」リリースツアーの初日のレポート。このツアーはいいものになる。多くの人に足を運んで欲しい。

”音の鳴る絵画” ポップでアーティスティックな音楽家【大槻美奈】

2018.02.11